労働・HR

秘密保持契約書(NDA)

取引先・業務委託先との秘密保持契約書(NDA)テンプレートを完全無料・会員登録不要でダウンロード。双方向NDAと片務NDAの2種同梱、秘密情報の定義・有効期間・存続条項・損害賠償まで実用的に整備。Word・Googleドキュメント・印刷用PDFと記入例PDFを完備。

最終更新: 2026年5月5日 WordPDF 会員登録不要・無料
2026年5月27日 時点の情報
経済産業省 営業秘密管理ハンドブック
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記入例・書き方サンプル (記入済みのサンプルPDF)

秘密保持契約書(NDA)テンプレートのプレビュー
双方向NDA・片務NDAの2種類を同梱・記入例PDF付き

秘密保持契約書(NDA)とは:基本と用途

秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)とは、取引先・業務委託先・コンサルタント・M&A検討相手などとの間で、開示した機密情報を外部に漏らさないことを約束する契約書です。

企業間の新規取引・共同開発・業務提携の前段階では、相手方に事業計画・技術情報・顧客リストなどを開示する必要が生じます。NDAはその情報を守るための法的根拠となります。

NDAが必要になる代表的な場面

  • 新規取引先への初回提案・デモ前
  • 業務委託(外注・フリーランス)先への仕様書・設計書開示
  • コンサルタント・アドバイザーへの経営情報開示
  • M&A・資本業務提携の検討段階(デューデリジェンス前)
  • 共同研究・共同開発の開始前
  • システム開発・デザイン委託時

秘密保持誓約書(T020)との違い(重要)

このページで配布しているNDA(秘密保持契約書)は取引先・業務委託先などの「法人・事業者間で締結する契約書」です。

一方、従業員が会社に対して一方的に義務を誓う書面は「秘密保持誓約書」であり、用途・形式・内容が異なります。雇用時・退職時の従業員向けには 秘密保持誓約書テンプレート(T020) をご利用ください。

項目 秘密保持契約書(NDA) 秘密保持誓約書(T020)
当事者 法人・事業者間(対等な立場) 従業員から会社への一方的誓約
義務の方向 双方向または片務(選択) 一方向(従業員のみ)
主な使用場面 取引・委託・M&A・共同開発前 雇用時・退職時の従業員管理
法的根拠 契約自由の原則・不正競争防止法 就業規則・雇用契約との整合が必要

営業秘密の3要件(不正競争防止法2条6項)

NDAで「秘密情報」と定義しても、その情報が不正競争防止法上の「営業秘密」として法的保護を受けるには、3つの要件を満たす必要があります。 不正競争防止法2条6項 は営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。

3要件の内訳

要件 内容 満たすための実務対応
秘密管理性 秘密として管理されていること マル秘表示・アクセス権限制御・パスワード・誓約書取得
有用性 事業活動に有用な技術上・営業上の情報 顧客リスト・製造方法・財務情報・研究データ等が該当
非公知性 公然と知られていないこと 業界誌・特許公報・自社Web等で公開していない

3要件の中で最も争われるのは「秘密管理性」

裁判実務で最も争点となるのは秘密管理性です。経済産業省の営業秘密管理指針によれば、秘密管理性の判断基準は「保有企業の秘密管理意思が、具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員等に対して明確に示され、その結果、従業員等が当該秘密管理意思を容易に認識できる」こととされています。

  • 「Confidential」「マル秘」等の表示が物理的・電子的に施されている
  • アクセス権限が業務上必要な者のみに限定されている
  • パスワード・施錠キャビネット・サーバー区分等の管理が実施されている
  • 従業員にNDA・誓約書を取得し義務を周知している

これらが整っていない情報は、たとえ社内で「秘密」と呼ばれていても、裁判では営業秘密として認められない可能性が高くなります。

NDAで保護されない情報(除外情報の4類型)

NDAで「秘密情報」と定義できない・してはいけない情報が存在します。これらを除外情報として契約書に明記しておかないと、受領者が将来的に同じ技術を独自開発したときも「NDA違反」と主張されるリスクがあります。除外情報を正確に定義することは受領者の利益保護として不可欠です。

除外情報の類型 具体例 根拠・理由
公知情報 特許公報・業界誌・プレスリリースで公開済みの技術 開示時点ですでに誰でも知ることができる情報を秘密にはできない
独自開発情報 受領者が開示者から独立して自力で開発・発明した技術 開示者の情報に依拠せず独自に到達した成果まで制約するのは不合理
第三者から正当取得した情報 秘密保持義務なしに第三者から正当に入手した技術・情報 受領者に秘密保持義務がない経路から取得した情報は対象外
法令・規制による開示強制 裁判所命令・規制当局・税務調査への開示 法的義務に基づく開示はNDA違反とみなさない(ただし事前通知を義務付けるのが一般的)

除外情報を定める際の実務ポイント

  • 「開示時点で」公知であることが要件:開示後に公知になった情報は原則として除外されない
  • 独自開発の立証責任は受領者側:開発記録・タイムスタンプ付きコミット履歴の保存が重要
  • 法令開示の場合は「可能な限り事前通知」条項を入れる:開示前に相手方に通知・差止の機会を与えることが信義則上求められる

双方向NDA vs 片務NDA

NDAには双方向(相互)NDA片務(一方向)NDAの2種類があります。状況に合わせて適切なほうを選択することが重要です。

項目 双方向NDA(相互NDA) 片務NDA(一方向NDA)
義務を負う当事者 両者とも秘密保持義務あり 情報を受け取る側のみ
情報の流れ 相互に機密情報を開示し合う 一方が一方的に情報を開示
典型的な使用場面 M&A・共同開発・業務提携検討 コンサル依頼・外注・初回提案
交渉上の立場 対等関係に多い 発注者が優位な関係に多い
契約書の分量 長め(両者の権利義務を整理) 短め(受領者の義務のみ)
交渉のしやすさ 両者対等で合意しやすい 受領側が条件を厳しく感じやすい

どちらを選ぶかの判断ポイント

  • 相手からも機密情報が開示される場合は双方向NDAを選ぶ(自社情報の保護にもなる)
  • 自社が情報を開示するだけで、相手から機密情報は来ない場合は片務NDAで十分
  • 迷ったら双方向NDAにしておくと後からの争いを防げる
  • 相手方が「双方向にしてほしい」と言ってきた場合、それ自体は合理的な要求

NDAに必須の8条項

取引先間のNDAには、以下の8条項を盛り込むことで実効性のある契約になります。各条項が抜けていると、いざ違反が起きたときに法的対応が難しくなります。

第1条 秘密情報の定義(含む情報・除外情報)

NDAで最も重要な条項です。何が「秘密情報」に該当するかを具体的に列挙します。定義が曖昧だと「その情報は秘密情報に含まれない」と主張されるリスクがあります。

  • 技術情報(設計図・ソースコード・製造方法・研究データ)
  • 営業情報(顧客リスト・価格設定・営業戦略・仕入先情報)
  • 財務情報(売上・原価・資金調達内容・予算)
  • 人事情報(給与・組織図・採用方針)
  • 事業計画・M&A・提携交渉に関する情報

第2条 秘密保持義務

受け取った秘密情報を第三者に開示・漏洩しない義務を定めます。業務遂行に必要な役員・従業員・専門家(弁護士・会計士)への開示は例外とし、その場合も同等の義務を課すことを明記します。

第3条 目的外使用禁止

秘密情報を本契約の目的(特定の取引・検討・開発等)以外に使用することを禁止します。競合他社への転用・自社開発への流用・投資判断への利用などが禁止対象となります。

第4条 複製制限

秘密情報の複製・記録・保存を必要最小限に制限します。クラウドストレージへの保存・スクリーンショット・印刷物の社外持ち出しなどについて具体的に定めます。

第5条 情報の返還・廃棄

契約終了時または相手方から要求があった場合に、秘密情報が記載された資料・データ・媒体を返還または廃棄する義務を定めます。廃棄証明の提出を求める条項を入れるとより確実です。

第6条 有効期間(契約期間 + 存続期間)

NDAには2つの期間概念があります。契約期間はNDA自体が有効な期間(例: 取引期間中)、存続期間は契約終了後も義務が続く期間(例: 終了後3年)です。両方を明記しておかないと、「契約が終わったから義務もなくなった」と主張されることがあります。

第7条 損害賠償

秘密情報の漏洩・目的外使用により損害が生じた場合の賠償義務を定めます。違約金条項(損害賠償額の予定)を設定する場合は金額を明記します。ただし過大な違約金は裁判所によって減額される場合があります。

第8条 合意管轄

紛争が生じた場合にどの裁判所で解決するかを定めます。一般的には情報を開示した側(守りたい側)の本社所在地を管轄する地方裁判所を指定します。

秘密情報の定義の書き方(最重要)

NDA実務でトラブルが最も多いのが秘密情報の定義です。定義が曖昧であると「その情報が秘密情報だとわからなかった」という主張が通ってしまいます。

マーキング方式 vs 全件秘密方式

方式 内容 メリット デメリット
マーキング方式 「Confidential」「社外秘」等のスタンプ・表記がある資料のみ対象 保護範囲が明確・受領側の負担小 スタンプ漏れがあると保護されない
全件秘密方式 開示されたすべての情報を秘密情報とみなす 漏れがない・確実な保護 受領側の負担が大きい・過剰になりがち
折衷方式(推奨) 基本は全件秘密方式。ただし除外情報を明記 実務バランスがよい 除外情報の列挙に注意が必要

口頭開示の取扱い

会議・商談での口頭の情報開示は証拠化が難しいため、「口頭開示後14日以内に書面で秘密である旨を確認した場合に秘密情報とみなす」という条項を入れるのが実務上のスタンダードです。確認書面はメールでも有効です。

除外情報(秘密情報から除くもの)

以下の情報は秘密情報から除外するのが一般的です。これらを除外しておかないと、「受領者が将来独自に同じ技術を開発したのに使えなくなる」などの問題が生じます。

  • 公知情報:開示時点ですでに公になっている情報
  • 独自開発情報:受領者が開示者から独立して自力で開発・取得した情報
  • 第三者から取得した情報:秘密保持義務なしに第三者から正当に入手した情報
  • 法令・規制により開示が義務付けられた情報(裁判所命令・行政機関の要求等)

秘密保持期間の決め方(業界別目安)

NDAの期間設定は、情報の価値・取引の性質・業界の慣行に応じて適切に定めることが重要です。期間が短すぎると保護が不十分になり、長すぎると相手方が応じなかったり法的に問題になることがあります。

業界別の存続期間目安

業界 存続期間の目安 理由・特徴
IT・SaaS 3〜5年 技術陳腐化が早い・ノウハウは2〜3年で更新
金融・FinTech 5〜10年 顧客情報・モデル算定式の長期保護が必要
製造業 5年〜永続 製造ノウハウ・配合比率は半永続的価値
医薬・バイオ 10年以上 研究開発情報の超長期保護(特許切れ後も)
コンサル・士業 3〜5年 クライアント情報の継続保護
M&A・投資検討 2〜3年 取引終了後の競合参入回避

契約期間の設定

  • 新規取引の検討段階:検討開始から1年が目安
  • 継続的な業務委託・取引:取引期間中(自動更新条項を入れる場合も)
  • M&A・資本提携の検討:デューデリジェンス開始から最終決定まで(通常1〜2年)
  • 共同開発:開発期間中(製品リリース後の存続期間を別途設定)

永続NDAは原則NG

「永続的に秘密を守る」という期間の定めのないNDAは、独占禁止法・公序良俗(民法90条)に違反する可能性があります。また受領側の事業活動を過度に制約するものとして有効性が否定されるケースもあります。情報の陳腐化を考慮した合理的な期間を設定することを推奨します。製造ノウハウなど永続的な価値がある情報については、NDA条項とは別に不正競争防止法上の営業秘密としての保護に依拠する設計が安全です。

目的外使用禁止条項の重要性(情報漏洩より深刻なリスク)

NDA違反で実際に最も問題となるのは「情報の外部漏洩」ではなく、「受領した情報の目的外使用」です。相手方が情報を外部に漏らしていなくても、NDAで定めた目的以外に使用した時点で違反が成立します。

目的外使用の典型事例

  • 競合製品の開発への転用:受領した技術情報を自社の類似製品開発に利用
  • 投資判断への利用:M&A検討で取得した財務情報を株式投資や他の投資判断に使用
  • 別取引先への横流し:コンサル業務で取得した顧客情報を別の営業活動に転用
  • 訴訟・交渉での悪用:取得した弱点情報を別の交渉の切り札として使用
  • 生成AIへの入力:業務で受領した秘密情報をAIサービスに入力して処理させる

目的外使用禁止条項の書き方のポイント

  • 「本契約の目的」を具体的に定義する:「○○に関する共同検討」「○○システムの開発委託」等と明示
  • 目的を超えた利用を明示的に禁止する:「第三者への開示禁止」とは別に「目的外使用禁止」を独立した条項にする
  • AI・クラウドサービスへの入力を明示的に取り扱う:「生成AIサービスへの入力は第三者への開示に該当する」旨を追記(後述)

生成AI・クラウドサービスとNDA(2025年以降の新論点)

生成AIサービスの業務利用が普及した2025年以降、「NDAで受領した秘密情報をAIサービスに入力してよいか」が新たな法的論点として浮上しています。2026年4月時点の弁護士解説では、AIへの入力は「第三者への開示」に該当する可能性が相対的に高いと指摘されています(STORIA法律事務所、2026年)。

リスクが高い行為の例

  • ChatGPT・Claude・Geminiなどのパブリック版に顧客情報・契約内容・設計図を入力する
  • AIサービスのデフォルト設定でユーザー入力がモデル学習に使用される場合(OpenAIのデフォルト設定は入力データを学習に利用しない方針だが利用規約の確認が必要)
  • NDAに「第三者への開示禁止」があるのに、AIに要約・翻訳・分析を依頼する

AI利用リスクを低減する対策

対策 具体的方法 効果
API経由・プライベートモード利用 OpenAI API(学習オプトアウト設定)・Microsoft Copilot for M365(企業契約)等を利用 入力データのモデル学習利用リスクを低減
NDA条項に明示 「生成AIサービスへの入力は事前書面承認を要する」旨を追加 相手方の予測可能性向上・違反時の立証容易化
社内規程の整備 情報分類ポリシー(公開可・社内限定・秘密情報)とAI利用ガイドラインを制定 従業員のAI誤使用を防止・営業秘密の秘密管理性を担保
匿名化・仮名化 個人名・社名・金額等を記号に置換してからAIに入力 秘密情報の直接入力を回避

AI関連の条項はNDA改訂のタイミングで追加することを推奨します。フリーランスの方はフリーランス新法とNDAの関係も参照してください。

電子契約によるNDA締結(クラウドサイン・GMOサイン比較)

NDAは印紙税法上の課税文書に該当しないため、電子化しても印紙税の節約メリットはありませんが、締結の迅速化・郵送コスト削減・改ざん防止・ログ保管の点で電子契約が急速に普及しています。電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)に対応したサービスを利用することで法的効力を確保できます。詳しい比較は電子契約サービス徹底比較もご参照ください。

主要電子契約サービスの比較(2026-05-28確認)

サービス 月額(税抜) 送信料 特徴
クラウドサイン ¥10,000〜(Lightプラン) ¥200/件 弁護士ドットコム運営・法的信頼性が高い・NDA特化テンプレあり
GMOサイン ¥8,800(標準プラン) ¥110/件(契約印タイプ) 国内シェアNo.1・コスト重視・SMBに強い
freeeサイン ¥980〜(個人プラン) 無制限(プランによる) freee会計との連携・スタートアップ・個人事業主に最適

電子署名の種類と法的効力

  • 当事者型(高度電子署名):マイナンバーカード等のICカードを使用・電子署名法3条の推定効あり
  • 事業者型(クラウドサイン等):サービス事業者が電子署名を付与・電子署名法2条1項の要件を満たすかは個別判断
  • 実務上は事業者型で十分:NDAの締結には事業者型電子契約サービスで法的に問題なく対応可能(弁護士ドットコム法務ブログ参照)

競業避止義務との関係(NDAと混同しやすい条項)

NDAに「競業避止義務」を一緒に定めるケースが多いですが、両者は本来別の義務です。混同すると過剰な義務を課してしまい、後から無効と判断されるリスクがあります。

項目 NDA(秘密保持義務) 競業避止義務
義務の内容 秘密情報を漏洩・目的外使用しない 競合他社に転職しない・競合事業を行わない
制限する自由 情報の使用・開示の自由 職業選択の自由(憲法22条)
有効性の判断 比較的認められやすい 4要素(地域・期間・業務範囲・代償)で厳格に判断
期間制限 合理的な期間であれば認められる 2年超・代償なし・地域無制限は無効になりやすい

競業避止義務の有効性4要素(判例基準)

  • 地域の限定:無限定(日本全国・全世界)は無効になりやすい。具体的な地域や事業範囲の限定が必要
  • 期間の限定:2年以内が実務上の目安。それを超えると無効判断が増える
  • 業務範囲の限定:「同種の事業一切」という広範な制限は無効になりやすい
  • 代償措置:競業避止を課す際は退職時の特別支給金等の経済的代償が有効性を補強する

業種別NDA作成時の注意点

業種によって保護すべき秘密情報の性質・リスクが大きく異なります。標準テンプレートをそのまま使用するのではなく、業種固有の論点を追記することで実効性が大幅に高まります。

IT・SaaS企業のNDA注意点

  • ソースコードの扱い:委託開発のソースコードが「秘密情報」か「成果物」かを明確に区別する
  • 個人情報・顧客データ:個人情報保護法との関係でDPAを別途締結する必要がある場合が多い
  • クラウドサービスへのデータ保存:秘密情報をAWSやGCPに保存する場合の取扱いを明示
  • オープンソース利用:OSSライセンスとの整合性(GPL等のコープレフト条項との関係)

製造業・メーカーのNDA注意点

  • 製造方法・配合比率:特許出願前の情報は特に厳格な管理が必要
  • 試作品・サンプル:物理的な試作品も「秘密情報の化体物」として返還・廃棄義務の対象に含める
  • 下請法との関係:親事業者が下請先にNDAを課す際は下請法3条書面との整合を確認
  • 国際取引:海外工場・海外仕入先との取引では準拠法・仲裁条項を必ず追加

コンサル・士業のNDA注意点

  • 業務報告書・分析資料の扱い:コンサルが作成した報告書に含まれる顧客の機密情報の取扱い
  • 利益相反の開示:同業他社との契約状況を開示する義務との整合
  • 元従業員による情報持ち出し:コンサルファーム離職時の情報管理を誓約書で補強

M&A・デューデリジェンスのNDA注意点

  • 開示資料の目録管理:開示した情報を記録したデータルームの管理方法を明示
  • 取引中止時の情報廃棄:M&Aが成立しなかった場合の情報返還・廃棄義務と期限
  • 開示した事実自体の秘密保持:「検討していること自体」をNDA対象に含めるかどうかを明示
  • 競合他社との並行交渉制限(Exclusivity):NDAとは別に排他交渉権を定める必要がある

違反時の救済措置(損害賠償・差止請求・刑事罰)

NDAに違反した相手方がいる場合、民事・刑事の両面で救済措置を講じることができます。情報の性質と漏洩の悪質性に応じて、以下の手段を組み合わせて対応します。証拠の保全が最初のステップです。

救済措置の全体像

救済手段 根拠法 請求できるもの 立証ハードル
契約上の損害賠償 民法415条 NDA違反による実損害額 中(債務不履行と損害額を立証)
不法行為による賠償 民法709条 故意・過失による損害額 高(故意過失と因果関係を立証)
不正競争防止法上の賠償 不正競争防止法4条・9条 営業秘密侵害の損害額(推定規定あり) 中(営業秘密3要件+侵害行為)
差止請求 不正競争防止法3条 使用・開示の停止・廃棄 中(営業秘密該当性が必要)
刑事告発 不正競争防止法21条 10年以下の懲役・2,000万円以下の罰金 高(故意・図利加害目的の立証)

損害賠償請求(民事)

NDA違反は 民法415条(債務不履行) に基づき損害賠償を求めることができます。原則として実際に被った損害額を立証する必要があります。営業秘密漏洩の場合は不正競争防止法9条の損害額推定規定が活用でき、漏洩先が得た利益を自社の損害として推定させることができます。

NDAに違約金条項(損害賠償額の予定)が設定されている場合は、実損害の立証なしに請求できる可能性があります。ただし、過大な違約金は裁判所によって減額される場合があります(民法420条)。

差止請求(不正競争防止法)

営業秘密が不正に使用されている場合、その使用・開示の差止めを求めることができます( 不正競争防止法3条 )。証拠の収集と弁護士への依頼を並行して進めることが重要です。差止請求は本案訴訟の前に仮処分申請として行うのが実務上の主流です(即時の使用停止が必要なため)。

刑事罰(不正競争防止法21条)

悪質な営業秘密の窃取・持ち出し・競合他社への提供は、不正競争防止法21条の営業秘密侵害罪として刑事告発が可能です。

  • 個人:10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金(併科可)
  • 法人(両罰規定):5億円以下の罰金
  • 海外漏洩を目的とした場合(同条3項):個人3,000万円以下、法人10億円以下に加重

刑事手続きを進める場合は、警察(生活経済課・知的財産犯罪担当)または検察に告訴状を提出します。弁護士を通じて行うのが一般的です。

対応の流れ

  • Step1:漏洩の事実・経路を確認し証拠を保全(メール・チャット・アクセスログ・資料)
  • Step2:弁護士に相談し、民事・刑事両面での対応方針を決定
  • Step3:内容証明郵便で差止・損害賠償を通知
  • Step4:相手方が応じない場合は仮処分申請または訴訟提起
  • Step5:悪質な場合は刑事告訴と並行して進める

NDA違反防止のための内部運用(社員教育・アクセス制御・ログ)

NDAを締結しても、内部での秘密情報の取扱いがずさんであれば、営業秘密の3要件のうち「秘密管理性」を満たさないことになり、違反時に法的保護を受けられません。NDA締結とセットで、社内の秘密管理体制を整備することが必須です。

社員教育・誓約書の取得

  • 入社時・退職時に秘密保持誓約書を取得(テンプレートはこちら
  • 取引先NDAで取得した秘密情報の取扱ルールを社内研修で周知
  • NDA違反のリスク(民事賠償・刑事罰)を具体例で教育
  • 退職者の競業避止・秘密保持義務の継続を明文化

アクセス権限管理(need-to-know原則)

  • 秘密情報は業務上必要な担当者のみがアクセス可能とする
  • 共有フォルダ・SaaSのアクセス権限を職責別に設定
  • 退職者・配置転換者のアクセス権限を即座に剥奪
  • 外部委託先には別途NDAを締結し、必要最小限の情報のみ共有

ログ保存・監査

  • アクセスログ・ダウンロードログを最低1年保存(漏洩時の証拠)
  • 異常な大量ダウンロード・深夜アクセスを検知するアラート設定
  • 定期的に秘密情報のアクセス権限棚卸しを実施
  • USB持ち出し制限・印刷ログの取得

マーキング・物理管理

  • 秘密文書には「Confidential」「マル秘」表示を必ず付与
  • 紙文書は施錠キャビネットで保管・持ち出し記録
  • 会議資料は配布数を記録し回収・廃棄証明を取得

個人情報保護法とNDAの関係(二重管理の必要性)

NDAで「秘密情報」として顧客の個人情報を保護しようとするケースが多いですが、個人情報保護法はNDAとは独立した法的義務を課すため、両方の対応が必要です。

NDAと個人情報保護法の違い

項目 NDA 個人情報保護法
法的性質 当事者間の契約 法律による強制義務
保護対象 秘密情報全般 個人情報・個人データ・要配慮個人情報
義務の根拠 民法・不正競争防止法 個人情報保護法(法的強制力)
違反時の制裁 損害賠償・差止(契約違反) 行政処分(勧告・命令)・刑事罰(1億円以下の罰金)

個人情報を含む業務委託での実務対応

  • NDA + 個人情報取扱委託契約(DPA)を両方締結:NDAのみでは個人情報保護法25条の「委託先の適切な監督」義務を果たせない
  • 委託先の選定基準を文書化:個人情報の取扱いが適切かどうかを事前に確認した記録を残す
  • 再委託先への個人情報共有は原則禁止:再委託する場合は委託元の同意を得た上で同等の管理義務を課す
  • 漏洩時の報告義務:改正個人情報保護法では一定規模の漏洩は個人情報保護委員会への報告義務あり(速やかに報告)

経済産業省「営業秘密管理ハンドブック」の活用

経済産業省は 営業秘密管理ハンドブック 営業秘密管理指針 を公開しています。これらは裁判実務でも秘密管理性の判断基準として参照される公式文書であり、NDA運用に取り組む全ての企業にとって必読です。

ハンドブック・指針が網羅する内容

  • 営業秘密の3要件の具体的な判断基準
  • 秘密管理性を満たすための具体的措置(アクセス制御・マーキング・誓約書)
  • 業種別・規模別の管理体制モデル
  • 従業員の異動・退職時の管理
  • 外部委託・共同研究・M&A検討時の留意点
  • 漏洩発生時の初動対応マニュアル
  • 裁判例の類型別解説

実務での活用ポイント

  • 自社のNDA・誓約書の見直し: ハンドブックの記載項目に沿って自社書式の不足条項を洗い出し
  • 取引先への説明資料: 「経産省指針に準拠」と説明することで交渉がスムーズに
  • 社員研修テキスト: 公的文書を一次資料として教材化
  • 監査・コンプライアンスチェック: 指針のチェックリストを内部監査に活用

特に中小企業向けには別途「中小企業向け営業秘密管理マニュアル」も公開されており、人員・予算が限られる組織でも導入できる現実的な管理手法が示されています。

業界特化版もご利用ください

業界特有の機密情報・営業秘密に対応した特化版NDAを用意しています。一般版と併用してください。

よくある質問(FAQ)

双方向NDAと片務NDA、どちらを使えばよいですか?
双方向NDA(相互NDA)は、両者が秘密情報を開示し合う場面に使います。共同開発・業務提携・M&A検討などが典型例です。片務NDA(一方向NDA)は、情報を開示するのが一方だけの場合に使います。コンサルタントへの依頼・外注先への仕様書開示・初回提案前の口外禁止などが該当します。迷ったときは双方向NDAにしておくと、後から「開示された側も義務がないのか」という争いを防げます。
口頭で話した内容も秘密情報になりますか?
口頭開示された情報を秘密情報として保護するには、「口頭開示後14日以内に書面で秘密である旨を確認する」という手続きを契約書に定めておく必要があります。この規定がないと、口頭の内容は保護対象外と判断されるリスクがあります。重要な口頭のやり取りは、その後すぐにメールで「本日お話しした○○の内容は秘密情報です」と確認しておくのが実務上の対応です。
有効期間はどれくらいが適切ですか?
契約期間(NDAが有効な期間)は取引期間に合わせて1〜3年が一般的です。存続期間(契約終了後も義務が続く期間)は機密情報の陳腐化を考慮して3〜5年が多く採用されています。「永続的に秘密を守る」という永続NDAは、独占禁止法・公序良俗の観点から原則として有効性が否定されやすいため、合理的な期間を設定することを推奨します。
NDAは契約期間終了後も有効ですか?
NDAには「契約期間」と「存続期間(残存条項)」の2つの概念があります。契約期間が終了しても、「本契約終了後も○年間は秘密保持義務を負う」という存続条項が定められていれば、その期間は義務が続きます。多くのNDAでは契約終了後3〜5年の存続期間を設定します。存続条項がない場合は契約終了と同時に義務も消滅するため、相手方の信頼性に応じて必ず明記しておくことが重要です。なお、不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報は、NDAの期間とは別に同法による保護(差止請求・損害賠償・刑事罰)が永続的に及びます。
副業先にNDA違反となる情報を伝えてしまった場合はどうすればよいですか?
まずは速やかに本業の上司・コンプライアンス部門に自己申告することが最善です。隠蔽は懲戒処分・損害賠償の責任を加重させます。副業先には伝えた情報の使用停止・廃棄を書面(メールでも可)で要請し、その記録を保全してください。漏洩した情報が営業秘密に該当する場合、不正競争防止法21条により最大10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金が科される可能性があります。早期の自主申告と被害最小化の努力は、民事・刑事いずれの責任判断でも有利に働きます。すぐに弁護士(営業秘密・知財に強い専門家)への相談を推奨します。
営業秘密として認められないケースはありますか?
はい、不正競争防止法2条6項の「秘密管理性・有用性・非公知性」の3要件のいずれかを満たさない情報は、たとえNDAに「秘密情報」と書いていても営業秘密としての法的保護を受けられません。具体的には、(1)社内で誰でもアクセス可能でアクセス制限がない情報、(2)既に業界で公知となっている情報、(3)Webやカタログで公開済の情報、(4)「Confidential」表示が一切ない情報を一括で秘密と称した場合、(5)社外秘文書を不特定多数に配布した場合などです。秘密管理措置(アクセス権限・パスワード・マル秘表示・誓約書)を整備することが営業秘密化の前提となります。
NDAなしでも法律で保護される情報はありますか?
NDAを締結していなくても、不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当する情報は同法により保護されます。不正取得・不正開示・目的外使用に対して差止請求(同法3条)・損害賠償請求(同法4条)・刑事罰(同法21条)を求められます。ただし営業秘密として認められるには「秘密管理性・有用性・非公知性」の3要件を満たす必要があり、立証ハードルが高い点に注意してください。NDAを締結しておけば、3要件を満たさない情報でも契約上の損害賠償(民法415条)を請求できるため、保護範囲を確実に広げる手段としてNDA締結が推奨されます。
NDAに違反した相手を訴えるにはどうすればよいですか?
違反が判明したら、まず証拠の保全(メール・チャット履歴・漏洩した資料の特定)を行います。次に弁護士に依頼して内容証明郵便で差止請求・損害賠償請求を通知します。民事では不正競争防止法2条・不法行為(民法709条)・NDA違反による損害賠償(民法415条)を請求できます。さらに悪質な場合(競合他社への転売・持ち出しを意図した不正取得)は不正競争防止法21条の営業秘密侵害罪として刑事告発も可能です。
電子契約サービス(クラウドサインなど)でNDAを締結できますか?
NDAは電子契約での締結が可能です。NDAは印紙税法上の課税文書に該当しないため、電子化による印紙税節約メリットはありませんが、締結の迅速化・改ざん防止・締結記録の自動保管というメリットは得られます。クラウドサイン・GMOサイン・freeeサインなどのサービスを使えば、PDFをアップロードして相手のメールアドレスを入力するだけで締結できます。
NDAを結ばずに情報開示してしまった場合、後から保護できますか?
NDAを締結せずに情報開示してしまった場合でも、不正競争防止法上の「営業秘密」の3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たしていれば、同法による保護を受けられます。ただし立証ハードルが高く、損害賠償の範囲も限定される可能性があります。開示後すぐにメールで「お伝えした情報は秘密として扱ってください」と送り、相手からの了承を得ておくことが事後的な保護策として有効です。情報の重要度が高い場合は、後追いで簡易NDA(覚書形式)を締結することも検討してください。
NDA違反の立証はどのように行いますか?
NDA違反の立証に必要な主な証拠は、(1)秘密情報の特定(何が漏洩したか)、(2)開示の事実(メール・チャット・証人証言)、(3)NDAの有効性(双方の署名・押印・電子署名ログ)、(4)損害の発生と因果関係(売上減少・競合製品への転用等)です。営業秘密侵害については、不正競争防止法9条の損害額推定規定があるため、侵害者が得た利益を損害として推定させることができます。証拠保全は漏洩発覚直後に弁護士立会いで行うことが理想的です。
取締役・役員にもNDAは必要ですか?
取締役・役員には会社法上の忠実義務(会社法355条)・善管注意義務(同330条・民法644条)が課されており、在任中は職務上知り得た情報を漏洩してはならない義務があります。ただしこれは在任中のみの義務であり、退任後の秘密保持・競業避止については別途NDAまたは誓約書を取得する必要があります。MBOやオーナーチェンジの際、退任する経営者へのNDA締結を忘れるケースが多いため注意が必要です。
退職後の競業避止とNDAはどう違いますか?
NDAは「秘密情報を漏洩しない」義務であり、競業避止条項は「競合他社に転職しない・競合事業を行わない」義務です。両者は異なる義務ですが、同一の契約書(または誓約書)に両方を盛り込むことが多いです。競業避止義務は職業選択の自由(憲法22条)を制約するため、有効性判断には「地域・期間・業務範囲の限定・代償措置」の4要素が必要とされます。一般的に地域無限定・期間2年超・代償なしの競業避止条項は無効とされやすいため、必要最小限の範囲に絞ることが重要です。
孫請け・再委託先に秘密情報を共有してもよいですか?
再委託先への秘密情報の共有は、NDAに「書面による事前承諾を得た場合に限り再委託先へ開示できる」という条項がある場合のみ認められます。この場合も、再委託先に対して同等の秘密保持義務を課すことが必要です。事前承諾なしに再委託先へ情報を渡した場合は、たとえ再委託先が情報を漏洩していなくても、発注元(情報開示者)に対してNDA違反となります。情報受領者は再委託先のNDA違反についても原則として連帯責任を負うと定める条項も一般的です。
AIサービス(ChatGPTなど)に秘密情報を入力するとNDA違反になりますか?
生成AIサービスへの秘密情報の入力は、NDAの「第三者への開示禁止」条項に違反する可能性が高いと解されています(2026年4月時点の弁護士見解)。特にOpenAIやGoogleのデフォルト設定ではユーザーが入力したデータがモデル改善に利用される場合があり、「AIへの入力=第三者への開示」と評価されるリスクがあります。対策として、(1)社内向けAPIやプライベートモードの利用、(2)NDAに「クラウドサービス利用に関する条項」を追加、(3)生成AI利用規程の整備、が推奨されます。社内で生成AIを業務利用する場合は、情報分類ポリシーと合わせて社内規程を整備することが不可欠です。
NDAの有効期間を延長したい場合、どうすればよいですか?
NDAの期間を延長するには、元のNDAに「協議の上書面で合意した場合は期間を延長できる」旨の条項がある場合はその手続きに従います。条項がない場合は覚書(変更契約書)を締結して期間延長条項を追加する方法が一般的です。覚書の書き方については覚書テンプレートをご参照ください。なお、存続期間中であれば義務は継続しているため、単に「更新」という形では対応できず、当事者双方の合意が必要です。
海外企業との取引でNDAを締結する場合の注意点は?
海外企業との取引では、(1)準拠法の指定(どの国の法律を適用するか)、(2)管轄裁判所または仲裁機関の指定(ADR条項)、(3)言語の指定(日本語・英語どちらが正文か)、(4)罰則の整合性(外国の法律では不正競争防止法相当の保護がない場合も)の4点に注意が必要です。英文NDA(Mutual Non-Disclosure Agreement)では秘密情報を "Confidential Information" として定義し、"Purpose" の明示が特に重要とされます。準拠法を日本法とし、東京地方裁判所を第一審管轄として指定するのが日本企業にとって最も対応しやすい設計です。
SaaSベンダーと契約するときにNDAは必要ですか?
SaaSベンダーとの契約では、ベンダーが提供する利用規約・プライバシーポリシーにデータ利用条件が含まれているため、必ずしも別途NDAは必要ではありません。ただし、(1)業務プロセスデータや顧客個人情報をSaaSに入力する場合、(2)ベンダーがシステム構築・保守のために自社の機密情報にアクセスする場合は、DPA(Data Processing Agreement:データ処理契約)またはNDAの締結を強く推奨します。個人情報を含む場合はNDAだけでなく個人情報保護法24条の「第三者提供の制限」に基づく委託先管理も必要です。
個人情報が含まれる場合、NDAだけで十分ですか?
個人情報(氏名・住所・メールアドレス等)が含まれる場合は、NDAだけでは不十分です。個人情報保護法(改正後)の下では、第三者への個人データ提供には本人の同意または委託先としての管理体制が必要です。業務委託の場合は「委託に伴う個人データの提供は第三者提供に当たらない」(同法24条但書)ため第三者提供の同意は不要ですが、委託先に対して「適切な監督」を行う義務(同法25条)が発生します。これはNDAとは別の法的義務です。個人データを含む業務委託ではNDA+個人情報取扱委託条項(または別途DPA)の両方を締結することが実務上のスタンダードです。

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参考文献・出典

本ページの内容は以下の公的情報源に基づき作成しています(2026-05-28 確認時点)。