医療費控除とは

本記事は一般情報の提供を目的としています。 個別の税務・会計判断は、税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。 記載の数値・制度は 2026-05-28 時点の国税庁公表情報に基づきます。

医療費控除は、所得控除の一種です。 1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えた場合、 その超えた金額を所得から差し引いて税負担を軽減できます。

サラリーマン・パートの方でも確定申告をすることで適用できます。 年末調整では申告できないため、必ず確定申告が必要です。

項目 内容
種類 所得控除(所得から差し引く)
対象期間 その年の1月1日〜12月31日に実際に支払った医療費
上限額 200万円
申告方法 確定申告(年末調整では申告不可)
申告期間 翌年2月16日〜3月16日(令和7年分:2026年2月16日〜3月16日)
効果 所得税の還付+翌年度の住民税軽減

出典: 国税庁「医療費控除を受ける方へ(令和7年分確定申告特集)」(2026-05-28確認)

計算式と上限(200万円)

医療費控除額の計算式は以下のとおりです。

計算式(正確な内容):
医療費控除額 = (その年の医療費総額 − 保険金等で補填される金額)−(10万円 または その年の総所得金額等の5% のいずれか少ない方)
上限: 200万円

「10万円を超えないと使えない」と思っている方が多いですが、 総所得金額等が200万円未満の方は5%のしきい値が適用されるため、10万円以下でも控除が受けられます。

総所得別のしきい値(控除が始まる医療費の額)

その年の総所得金額等 しきい値(控除が始まる額) 例: 年間医療費15万円の場合の控除額
200万円以上 10万円 15万円 − 10万円 = 5万円
150万円 7万5千円(150万円×5%) 15万円 − 7万5千円 = 7万5千円
100万円 5万円(100万円×5%) 15万円 − 5万円 = 10万円
50万円 2万5千円(50万円×5%) 15万円 − 2万5千円 = 12万5千円

出典: 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」(2026-05-28確認)

「総所得金額等」は給与収入から給与所得控除を差し引いた後の金額です。 年収と総所得は異なります。給与収入のみの場合、年収162万5千円以下なら給与所得控除55万円が適用されます。 正確な計算はkeisan-naviの計算ツールをご活用ください。

対象となる医療費の正確な範囲

医療費控除の対象になる費用を正確に把握することが重要です。 以下は国税庁の一次情報をもとにした対象費用の一覧です。

費用の種類 具体例・補足 対象
診療・治療費 医師・歯科医師の診察料・手術費・処置費 対象
処方薬代 医師の処方箋による薬。治療目的の市販薬(風邪薬等)も対象 対象
入院費(部屋代・食事代) 入院時の部屋代・食事代(差額ベッド代含む) 対象
通院交通費 電車・バス等の公共交通機関の運賃。領収書がなくても交通系ICカードの記録等で可 対象
あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう 治療目的で国家資格者(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師)が行う施術 対象
介護施設サービス費 介護保険の居宅・施設サービスの自己負担額(一定の条件あり) 対象
助産師による出産介助 助産院での分娩費用 対象
歯科治療費 虫歯治療・インプラント(機能補填目的)・入れ歯・矯正(咬合機能改善目的) 対象
医療用補装具等 コルセット・義手・義足・松葉杖・補聴器(医師の指示がある場合)・眼鏡(弱視の場合) 対象
出産費用 妊婦健診・分娩費・入院費。出産育児一時金(50万円)は補填金として差し引く 対象
看護師・保健師への支払い 療養上の世話を受けるための費用 対象
寝たきり患者のおむつ代 医師が証明した場合に限る(おむつ使用証明書が必要) 対象(条件つき)

出典: 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」国税庁「No.1128 歯の治療費の具体例」(2026-05-28確認)

通院のタクシー代は「公共交通機関の利用が困難な状態」であれば対象になります。 足が不自由で電車・バスが利用できない場合、深夜・緊急時の搬送などが該当します。 「便利だからタクシーを使った」という場合は対象外です。

対象外の費用

以下の費用は医療費控除の対象外です。 対象だと思い込んで計上すると税務調査で指摘される場合があります。

費用の種類 理由・補足 対象外
健康診断・人間ドック 「予防」目的のため対象外。ただし検診で重大な疾病が発見されて治療した場合は、検診費用も対象になる(国税庁 No.1122) 原則対象外
予防接種 インフルエンザワクチン・コロナワクチン等。「予防」目的のため対象外 対象外
美容整形 治療目的でなく美容目的の手術・施術 対象外
サプリメント・栄養補助食品 健康増進目的の場合は対象外。医薬品として認可されているものは対象 対象外
ビタミン剤・滋養強壮剤 疲労回復・健康増進目的は対象外 対象外
自家用車のガソリン代・駐車場代 通院に使っても対象外(状況を問わず) 対象外
医師への謝礼 診療行為の対価でない謝礼は対象外 対象外
視力矯正レーシック(美容目的の場合) 治療目的(眼疾患の矯正)であれば対象になる場合あり。美容目的は対象外 目的による
一般向けコンタクトレンズ・眼鏡 通常の視力矯正目的の眼鏡・コンタクトは対象外(弱視・斜視等の治療用は対象) 原則対象外
差額ベッド代(本人都合の個室選択) 治療上必要でなく、本人の都合で個室を選んだ場合は対象外 対象外

出典: 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」(2026-05-28確認)

セルフメディケーション税制との比較・選択判断

医療費控除の代わりに「セルフメディケーション税制(特定のOTC医薬品購入額の所得控除)」を選択することもできます。 両者は選択適用であり、同じ年に併用することはできません。

項目 通常の医療費控除 セルフメディケーション税制
対象 病院・診療所への医療費全般 対象のOTC医薬品(スイッチOTC等)の購入費
しきい値 10万円(または総所得の5%)を超えた部分 12,000円を超えた部分
上限 200万円 88,000円
追加要件 なし 健康診断・特定健診・予防接種等を受けていること
選択変更 一度選択したら同年分の変更不可(修正申告・更正の請求でも不可)

出典: 国税庁「セルフメディケーション税制(令和7年分確定申告特集)」(2026-05-28確認)

どちらを選ぶべきか:判断のポイント

  • 病院・クリニックの医療費が多い年(入院・手術・出産など) → 通常の医療費控除が有利なケースが多い
  • 病院はほぼ行かないが市販薬をよく購入する年 → セルフメディケーション税制が適用できる可能性がある
  • 総所得が低い(200万円未満) → しきい値が5%まで下がるため、通常の医療費控除が有利になりやすい
セルフメディケーション税制の適用には「健康への取組み」証明が必須です。 会社の定期健康診断・特定健康診査・がん検診・予防接種等を受けていることが条件です。 証明書類(健診結果の通知等)の保管も必要です(5年間)。
セルフメディケーション税制の対象OTC医薬品のパッケージには識別マーク(セルフメディケーション税制対象)が表示されています。 購入時のレシートにも記載されているので、レシートを保管しておきましょう。

医療費の領収書・明細書の整理方法

年間の医療費を正確に集計するためには、日頃からの整理が重要です。

整理の基本

  • 領収書は受け取ったらすぐに1か所にまとめる(封筒・クリアファイル等)
  • 通院交通費は手帳やメモに記録する(領収書が出ない公共交通機関は日付・区間・金額を記録)
  • 保険金の入金通知も保管する(補填金の計算に必要)
  • 対象外の費用(健診・予防接種等)は最初から分けておく

医療費通知(お知らせ)の活用

健康保険組合(協会けんぽ・組合健保等)から年に1〜2回、「医療費のお知らせ」が送られてきます。 これを活用することで、通院記録の入力作業を大幅に省略できます。

活用方法 内容
紙の通知を使う場合 e-Taxの入力画面で「医療費通知情報入力」として記載できる。通知に記載された費用の領収書は5年保管不要
XMLデータを使う場合 マイナポータル連携でXMLデータを取り込めば自動入力可能。入力漏れのリスクが減る
注意点 通知に記載されていない費用(通院交通費・市販薬・通知時期以降の医療費等)は別途入力が必要

出典: 国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」(2026-05-28確認)

領収書の保管期限は5年間です。 確定申告期限(3月16日)から5年間、自宅での保管が義務づけられています。 税務署から提出を求められた場合に備えて大切に保管してください。

確定申告での記入方法(医療費控除の明細書・e-Tax手順)

医療費控除を受けるには、「医療費控除の明細書」を作成し確定申告書に添付します。 現在は領収書の添付は不要ですが、5年間の自宅保管が必要です。

  1. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセス
    e-Taxのウェブ版(https://www.keisan.nta.go.jp/)にアクセスします。 スマートフォンでも利用できます。マイナンバーカードがあると手続きが簡単です。
  2. 「医療費控除」を選択し入力方法を選ぶ
    「医療費通知情報の入力」「医療費の入力(明細書作成)」「XMLデータの読み込み」の3方法があります。 医療費通知のXMLデータがある場合は取り込みが最も簡単です。
  3. 医療費の明細を入力する
    「医療を受けた方の氏名」「病院・薬局等の名称」「支払った医療費の額」「補填された金額」を入力します。 通院交通費も別途入力できます。
  4. 所得・控除を入力して申告書を完成させる
    給与収入(源泉徴収票を参照)・各種控除を入力します。 医療費控除額が自動計算され、還付税額が確認できます。
  5. e-Taxで申告書を送信する
    マイナンバーカードのICチップ読み取り、またはID・パスワード方式で送信します。 送信後は「受付結果」を保存しておきましょう。

出典: e-Tax「作成コーナーで『医療費控除』を入力したい」(2026-05-28確認)

申告期限(3月16日)を過ぎても還付申告は5年間できます。 医療費控除は「還付申告」にあたるため、1月1日から5年間は申告が可能です。 期限を過ぎても申告しないのは損です。

還付金の目安と振込時期

医療費控除を申告すると、所得税の還付翌年度の住民税軽減の2つの効果があります。

所得税還付の計算式

還付される所得税 ≒ 医療費控除額 × 所得税率

年収(給与所得のみ)の目安 所得税率(概算) 医療費控除額10万円の場合の還付税額目安
〜195万円 5% 約5,000円
195万円〜330万円 10% 約1万円
330万円〜695万円 20% 約2万円
695万円〜900万円 23% 約2万3千円
上記は概算です。実際の還付税額は各種所得控除・復興特別所得税(2.1%加算)・住宅ローン控除等によって異なります。 正確な計算はe-Taxの入力画面またはkeisan-naviの計算ツールでご確認ください。

住民税の軽減

医療費控除額 × 住民税率(10%)分が翌年度の住民税から差し引かれます。 例えば医療費控除額が10万円なら、翌年度の住民税が約1万円軽減されます。 住民税の軽減は6月ごろ(翌年度の住民税決定時)に反映されます。

還付金の振込時期

申告時期 振込までの目安
2月中旬〜3月16日(確定申告期間内) 申告から1〜2か月後が目安
1月1日〜(還付申告は早期提出可) 1月提出なら2〜3週間以内に振込されることもある
3月16日以降(期限後) 通常と同様だが処理が遅くなる場合がある

参照: 国税庁「No.1119 医療費控除に関する手続について」(2026-05-28確認)

家族の医療費合算ルール

医療費控除は「生計を一にする」配偶者・その他の親族の医療費を合算できます。

合算できる家族の範囲

  • 同居の配偶者・子ども・親(同居している家族は基本的に対象)
  • 別居の家族でも「生計を一にする」場合は対象 (仕送りをしている、生活費の相互扶助がある場合など)
  • 扶養控除の対象外となっている家族でも、生計を一にしていれば合算可能

合算する場合のポイント

  • 誰の申告にまとめるかで有利・不利が変わります。 税率が高い(所得が高い)方の申告にまとめた方が、同じ控除額でも還付税額が多くなります。
  • 家族それぞれが医療費を支払っている場合、全員分の領収書を1か所に集めて合算します。
  • 補填される保険金(医療保険・生命保険)は、それぞれ「対象となる費用」に紐づけて差し引きます。
ケース 合算の可否
同居の夫婦・子ども・親 合算可
別居で仕送りをしている親 合算可(生計を一にすると認められる場合)
生活費が完全に独立した別居の兄弟 合算不可
共働きで別々に家計を管理している夫婦 同居であれば合算可が一般的(ただし確認が必要)

出典: 国税庁「医療費を支払ったとき」(2026-05-28確認)

よくある質問(FAQ)

医療費が10万円を超えなくても医療費控除を受けられますか?
総所得金額等が200万円未満の方は、10万円を超えなくても医療費控除を受けられる場合があります。医療費控除のしきい値は「10万円」または「その年の総所得金額等の5%」のいずれか少ない金額です。例えば総所得が150万円の場合、しきい値は150万円×5%=7万5千円となり、医療費が7万5千円を超えれば控除が受けられます(国税庁 No.1122 2026-05-28確認)。
医療費通知(お知らせ)だけで確定申告できますか?
医療費通知を使うと入力を大幅に省略できますが、通知に記載されていない費用(通院交通費・市販薬など)は別途明細書への記載が必要です。健康保険組合から送付される「医療費のお知らせ」はe-Taxで取り込めます(XMLデータ対応)。取り込んだ場合は、その費用の領収書は5年間保管不要ですが、通知に記載されていない費用の領収書は保管が必要です(国税庁 2026-05-28確認)。
通院のタクシー代は医療費控除の対象になりますか?
「公共交通機関の利用が困難な状態」かどうかが判断の分岐点です。足が不自由で電車・バスの利用が困難な場合、深夜・早朝の緊急搬送の場合などはタクシー代も対象になります。一方、単純に「タクシーの方が楽だから」という理由では対象外です。自家用車でのガソリン代・駐車場代は状況を問わず対象外です(国税庁 No.1122 2026-05-28確認)。
インプラントは医療費控除の対象になりますか?
はい、インプラント治療は医療費控除の対象です。失われた歯の機能を補う目的の治療は対象となります。ただし、一般的に支出される水準を著しく超える部分(例:金属素材の美容目的のアップグレード分)は対象外になる場合があります。歯科治療費の詳細は国税庁 No.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」(2026-05-28確認)をご確認ください。
医療保険の保険金を受け取った場合、控除額はどうなりますか?
「保険金等で補填される金額」を差し引いて計算します。保険金が補填される費用の実費のみを超える部分が医療費として計算できます。ただし、差し引きがマイナスになっても他の費用から差し引く必要はありません(費用ごとに計算します)。例えば、入院費10万円に対して保険金15万円を受け取った場合、この入院費はゼロ扱い(マイナスは切り捨て)です(国税庁 2026-05-28確認)。
出産育児一時金をもらいましたが、出産費用はどう計算しますか?
出産育児一時金(2026年時点:50万円)は「補填される金額」として差し引きます。例えば出産費用(入院・分娩費等)が60万円で出産育児一時金50万円を受け取った場合、医療費として計上できるのは10万円です。出産育児一時金の額は加入している健康保険によって異なりますので、実際に受け取った金額を確認してください(国税庁 2026-05-28確認)。
医療費の領収書を失くしました。確定申告できますか?
領収書が手元にない場合、医療機関に再発行を依頼するか、健康保険組合の「医療費のお知らせ」を活用する方法があります。領収書がない場合、医療費控除の明細書に記載できる根拠書類がないため、通常は控除の適用が困難です。まず医療機関に再発行を依頼してください。健康保険組合から届く医療費通知(医療費のお知らせ)に記載されている費用はそちらを活用できます。なお、医療費の領収書は確定申告期限から5年間、自宅での保管が義務付けられています(国税庁 2026-05-28確認)。
過去の医療費控除を申告し忘れた場合、遡って申告できますか?
はい、確定申告期限から5年以内であれば「更正の請求」で遡って申告できます。例えば2026年5月時点では、令和2年分(2020年分)まで遡れます。「更正の請求書」に必要事項を記入し、税務署に提出します。e-Taxでも手続き可能です。過去5年分の領収書を保管している場合は、漏れなく確認することをお勧めします(国税庁 No.1119 2026-05-28確認)。
共働き夫婦の場合、どちらの医療費控除で申告する方が有利ですか?
所得が高い(税率が高い)方が申告した方が、税負担軽減の効果が大きくなります。医療費控除額が同じでも、所得税率が20%の方と10%の方では戻ってくる税額が2倍異なります。ただし、医療費を合算できる条件は「生計を一にする家族」であることです。共働きでも同居または生活費の相互扶助がある場合は合算可能です。実際の適用可否や有利判断は税理士等の専門家にご相談ください。
セルフメディケーション税制を選んだ場合、通常の医療費控除との併用はできますか?
できません。セルフメディケーション税制と通常の医療費控除は「選択適用」です。同じ年分に両方を適用することは認められていません。また、一度選択すると後から変更することもできません(修正申告や更正の請求による変更も不可)。どちらが有利か事前に計算してから申告することが重要です。keisan-naviの医療費控除計算ツールで比較試算ができます(国税庁セルフメディケーション税制 2026-05-28確認)。

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