電子帳簿保存法とは(3区分の全体像)
電子帳簿保存法(電帳法)は、税務関係の帳簿・書類を電子データとして保存するためのルールを定めた法律です。 正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」。 1998年の制定以来、デジタル化の進展に合わせて改正が繰り返されてきました。
現在の電帳法は3つの区分から成ります。 それぞれ「義務か任意か」が異なるため、まずここを正確に理解することが対応の第一歩です。
| 区分 | 対象書類・帳簿 | 義務・任意 | 概要 |
|---|---|---|---|
| ①電子帳簿等保存 | 会計ソフト等で作成した帳簿・決算関係書類・取引関係書類 | 任意 | 自社で作成した電子データを、そのまま電子保存することを認める制度。「優良な電子帳簿」は過少申告加算税が5%軽減される優遇あり |
| ②スキャナ保存 | 紙で受け取った請求書・領収書・契約書等 | 任意 | 紙書類をスキャンして電子化・原本廃棄を認める制度。解像度・改ざん防止・検索要件を満たす必要あり |
| ③電子取引データ保存 | メール・クラウド・ECサイト等で授受した請求書・領収書等 | 義務(全事業者) | 電子で受け取ったものは紙に印刷せず、電子データのまま保存しなければならない。2024年1月から完全義務化 |
出典: 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」(2026-05-28確認)
「義務」は③だけ。①②は任意だが使うとお得
多くの方が誤解しているポイントです。 帳簿を電子化すること自体(①)は義務ではありません。 紙で受け取った書類をスキャンすること(②)も任意です。
「やらないといけない」のは③電子取引データ保存のみ。 メール添付のPDF請求書、ECサイトのオンライン領収書、クラウドストレージで受け取ったPDFなど、 「電子で受け取ったもの」は電子データのまま保存する義務があります。
2026年完全義務化「もう猶予はない」現状
電子取引データ保存の義務化は、当初2022年1月から施行される予定でした。 しかし準備が追いつかない事業者が多く、2年間の猶予期間(宥恕措置)が設けられました。
猶予措置はいつ終わったか
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2022年1月〜2023年12月31日 | 猶予期間(宥恕措置):やむを得ない事情がある場合は紙保存を容認 |
| 2024年1月1日〜 | 猶予措置終了。電子取引データ保存が完全義務化(例外なし) |
| 2026年現在 | 2024年1月以降に受け取った電子取引データは全て要件通りの保存が必要 |
出典: 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」(2026-05-28確認)
今すぐやること4点
猶予措置が終了した現在、以下の4点を最優先で対応してください。
- 電子取引の棚卸し(どこから電子データを受け取っているか確認)
メール添付PDF・クラウドサービスのダウンロード・ECサイトの領収書・EDI・インターネットバンキングの明細等をリストアップする。把握していない受領経路があれば漏れが発生します。 - 改ざん防止措置の選択(事務処理規程・タイムスタンプ・クラウド会計のいずれか)
最低コストで始めるなら「事務処理規程の整備」(国税庁のひな型利用・コストゼロ)を推奨。タイムスタンプサービスやクラウド会計は費用が発生するが管理が楽になります。 - 検索要件の確保(ファイル命名規則の統一)
基準期間売上高5,000万円以下の事業者は「20260115_10780_ABC商事_請求書.pdf」形式のファイル命名で対応可能。売上高5,000万円超は専用システムを推奨します。 - 保存場所の一本化と7年間保存体制の確立
保存場所をローカルフォルダ・クラウドストレージ等に統一し、フォルダ構成(年→月→種別等)を決める。法定保存期間は原則7年間(欠損金がある場合は10年間)です。
区分別 実務対応の進め方
①電子帳簿等保存(任意・自社作成書類)
会計ソフトで作成した仕訳帳・総勘定元帳・損益計算書等を電子データで保存する区分です。 任意なので「やらなければ違法」ではありません。
ただし、「優良な電子帳簿」として認定されると以下の優遇があります。
- 過少申告加算税が通常10%→5%に軽減(優良電子帳簿の場合)
- 青色申告特別控除65万円の維持(e-Taxまたは電子帳簿保存が条件)
②スキャナ保存(任意・紙書類の電子化)
紙で受け取った請求書・領収書・契約書などをスキャンして、電子データとして保存し原本を廃棄できる制度です。
主な要件は以下のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 解像度 | 200dpi以上(A4サイズ)。カラーは赤・緑・青それぞれ256階調以上 |
| 改ざん防止 | タイムスタンプ付与(受領後最長約2か月+7営業日以内)または変更履歴が残るシステムの利用または事務処理規程の整備 |
| 検索要件 | 取引年月日・取引金額・取引先名で検索できること(基準期間売上5,000万円以下は緩和あり) |
| ディスプレイ等の備付け | 税務調査の際にデータを画面表示・出力できる環境を整える |
出典: 国税庁「電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)」(2026-05-28確認)
③電子取引データ保存(義務・最優先対応)
全事業者に対して義務が課されるのがこの区分です。 メール・クラウドサービス・EDI等で電子的に授受した請求書・領収書・契約書・見積書・納品書等が対象です。
保存に必要な2つの要件を確認します。
| 要件 | 内容 | コストゼロの方法 |
|---|---|---|
| ①改ざん防止 | データが改ざんされていないことを証明できる措置 | 事務処理規程の整備(国税庁ひな型を使用) |
| ②検索機能の確保 | 取引年月日・金額・取引先で検索できる状態 | ファイル命名規則(基準期間売上5,000万円以下の場合の緩和措置) |
「電子取引」の代表例は以下のとおりです。
- メール添付で受け取ったPDF請求書・領収書
- Amazonビジネス・楽天ビジネス等のECサイトからダウンロードした領収書
- クラウドストレージ(Dropbox・OneDrive等)で受け取った書類
- インターネットバンキングの取引明細(電子形式でダウンロードしたもの)
- EDI(電子データ交換)で授受した注文書・受注書
- クラウドサービスの利用明細・サブスクリプション請求書
コスト0対応の現実策(個人事業主向け)
電子帳簿保存法への対応は、必ずしも有料ソフトやサービスが必要なわけではありません。 個人事業主や小規模事業者は、国税庁が提供する無料ひな型を活用することで、コストゼロで基本要件を満たせます。
ステップ1: 事務処理規程を整備する(コストゼロ)
改ざん防止の最も手軽な方法が「事務処理規程」の作成です。 国税庁が無料のWordひな型を公開しており、事業者名・担当者名等を書き換えるだけで完成します。
- ひな型配布先: 国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」
- 個人事業主向けひな型: 「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(個人事業主用)」
- 費用: 無料
- 作業時間: 30〜60分程度(名前・日付・対象書類を書き換えるだけ)
ステップ2: ファイル命名規則を統一する
基準期間(前々年)の売上高が5,000万円以下の事業者は、 ファイル命名を統一することで「検索要件」の緩和措置を利用できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 推奨命名形式 | YYYYMMDD_金額(税込)_取引先名_書類種別.pdf 例: 20260115_10780_ABC商事_請求書.pdf |
| フォルダ構成例 | 電子取引データ / 2026年 / 01月 / [上記のファイル名] |
| 適用条件 | 基準期間(前々年度)の売上高が5,000万円以下の事業者 |
| 注意点 | 税務調査時にデータを画面表示・印刷できる環境が必要 |
ステップ3: タイムスタンプ不要の保存フロー
事務処理規程とファイル命名規則を整備すれば、 タイムスタンプサービスを使わずに電子取引データ保存の要件を満たせます。 以下が個人事業主向けの最低コスト対応フローです。
- 電子で受け取った書類をすぐに所定フォルダへ移動
メール受信・サイトダウンロード後、即座に「電子取引データ」専用フォルダへ格納する。 - ファイル名を「YYYYMMDD_金額_取引先_書類種別」に変更
例: 20260115_10780_Xserver_請求書.pdf 受け取りと同時にリネームする習慣をつける。 - 事務処理規程に沿って保存完了を確認
規程に記載したルール通りに保存されているかをチェックする。 クラウドバックアップ(Google Drive等)への同期もこのタイミングで。
個人事業主・中小企業別 最低限の対応マトリクス
事業規模・取引量・IT環境によって最適な対応方法は異なります。 以下のマトリクスを参考にしてください。
| 区分 | 事業規模の目安 | 義務対応(③) | 推奨追加対応 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主A (売上300万円未満・電子取引少) | フリーランス・副業・スモール事業者 | 事務処理規程(ひな型利用)+ ファイル命名規則 | Google Driveでバックアップ(月0円) |
| 個人事業主B (売上300万〜1,000万円・電子取引中程度) | フリーランス・個人事業主 | 事務処理規程 + ファイル命名規則(または会計ソフト活用) | freee or マネーフォワードで自動化(月¥1,500〜¥2,480) |
| 中小企業A (売上1,000万〜5,000万円以下) | 法人・小規模事業者 | クラウド会計ソフトまたは事務処理規程+ファイル管理ルール | 電子取引専用ストレージ整備・担当者ルール明文化 |
| 中小企業B (売上5,000万円超) | 中規模法人 | クラウド会計ソフト + タイムスタンプサービス(推奨) | 電子帳簿保存法対応ツールの導入・税理士と連携 |
SaaS導入を検討すべきケース vs Excel対応で十分なケース
電子帳簿保存法の対応に専用SaaSが必要かどうかは、事業の実態に応じて判断します。
SaaS(クラウド会計・文書管理ツール)を導入すべきケース
- 月の電子取引件数が50件以上(手動ファイル命名の負担が大きい)
- 従業員・担当者が複数名(ルール統一とアクセス管理が必要)
- 税理士・会計事務所とのデータ共有が必要
- 仕入税額控除のためにインボイス番号を請求書ごとに管理したい
- 電子帳簿等保存(①)の「優良電子帳簿」認定を目指したい
- 消費税申告・年末調整・給与計算も一括自動化したい
Excel・フォルダ管理で対応が十分なケース
- 月の電子取引件数が20件以下の個人事業主・フリーランス
- 売上高が安定して5,000万円以下(検索要件緩和措置を使える)
- 電子取引の受領先が数社程度に限られている
- 既に会計事務所に記帳委託しており、追加コストを抑えたい
よくある誤解 5選
電子帳簿保存法に関しては、古い情報や曲解が広まっています。 以下の5つの誤解は特に注意が必要です。
誤解1: 「紙で保存してもいい」
誤り。電子で受け取った書類(メール添付PDF等)を紙に印刷して保存することは、2024年1月以降は認められていません。 「印刷して保存すればOK」は猶予措置があった時代の話です。 2026年現在は電子データのまま保存する義務があります。
誤解2: 「メールPDFは原本が送信者側にあるからうちは保存不要」
誤り。受領した側にも保存義務があります。 取引先がインボイスの原本を持っていても、受け取った自社が保存していなければ法律違反の状態です。 受領ごとに所定フォルダへ格納するルールを徹底してください。
誤解3: 「USBに保存しておけばタイムスタンプ不要」
正しい部分と誤りがあります。USBへの保存は認められますが、タイムスタンプなしで要件を満たすには「事務処理規程の整備」が別途必要です。 単にUSBに保存するだけでは「改ざん防止措置」を講じていることになりません。
誤解4: 「自分でExcelで作った請求書は電子取引に含まれない」
半分正しいが要注意。自分で作成して自分で保存する書類(①電子帳簿等保存)は義務対象外です。しかし、その請求書をメールで送付・受領した相手側は「電子取引データ」として③の保存義務があります。 取引相手が適切に保存しているかも確認しておきましょう。
誤解5: 「クラウドストレージに上げておけば自動的にOK」
誤り。Google DriveやDropboxにPDFを上げるだけでは要件を満たしません。 ①改ざん防止措置(事務処理規程またはタイムスタンプ等)と②検索機能の確保(ファイル命名またはシステム)の両方が必要です。 クラウドストレージはあくまで「保存場所」であり、それだけでは法律上の要件を充たしません。
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