本記事は2026-05-28時点の情報に基づいています。施行日・指針の詳細は政令・省令指定のため、 必ず厚生労働省公式サイトで最新情報を確認してください。 本記事は一般情報です。個別事案の対応・規程整備は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客・取引先・利用者等が行う言動であって、その手段・態様が社会通念上相当な範囲を超え、従業員の就業環境が害されるものです(厚生労働省指針より)。

パワハラ・セクハラが「社内」の問題であるのに対し、カスハラは会社外部の第三者(顧客等)が行為者であることが特徴です。そのため従来の職場内ハラスメント対応だけでは不十分で、専用の方針・規程・体制が必要です。

カスハラの具体例

種別 具体的な言動の例
暴言・侮辱 「馬鹿」「使えない」などの人格否定発言・差別的言動
脅迫・恫喝 「訴えるぞ」「SNSに晒す」「上司を出せ」の繰り返し
長時間クレーム 何時間も電話・来店し、業務を妨害する行為
不当な要求 商品・サービスと無関係な金銭要求・過大な謝罪要求
SNS誹謗中傷 虚偽内容をSNS・口コミサイトに投稿・拡散する行為
暴力・不退去 従業員への暴力・退店要請後の居座り(刑事事案)

正当な苦情・クレーム(商品・サービスの不備に対する指摘)はカスハラに含まれません。引き続き誠実に対応することが事業者の基本姿勢です。

カスハラの現状(データ)

  • 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(2022年度)によると、過去3年間にカスハラを経験した労働者は15.0%
  • 業種別では医療・福祉、小売、飲食でカスハラ経験率が高い傾向がある
  • カスハラによる従業員の離職・メンタルヘルス悪化が深刻化し、採用難・事業継続リスクに直結している

出典: 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」(2026-05-28確認)

2026年10月義務化の内容(改正法の概要)

令和7年(2025年)6月11日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)」が公布されました。

この改正により、カスタマーハラスメント対策がこれまでの「努力義務」から「雇用管理上の措置義務」へ格上げされました。

項目 内容
法律名 改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)
公布日 令和7年(2025年)6月11日
施行日 令和8年(2026年)10月1日(見込み)
対象事業主 労働者を1人でも雇用するすべての事業主(業種・規模問わず)
改正の性質 努力義務 → 措置義務(違反時は行政指導・公表対象)
施行日は「見込み」です: 施行日は「公布の日から1年6か月以内で政令で定める日」とされています。2026年10月1日は政令指定の見込み日です。確定情報は厚生労働省公式サイトで確認してください。

出典: 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」(2026-05-28確認)

企業が講じなければならない5つの措置

厚生労働省指針に基づく5つの措置義務を解説します。2026年10月1日までにすべて整備が必要です。

措置1: 方針の明確化と周知

会社として「カスハラには毅然とした態度で対応し、従業員を守る」方針を明確に定め、以下の方法で周知します。

  • 社内規定(就業規則別規定)としての明文化
  • 全従業員への周知(社内報・掲示・研修)
  • 経営トップからのメッセージ発信(実効性を高める)
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措置2: 相談体制の整備

従業員がカスハラ被害を安心して相談できる窓口と体制を構築します。

  • 相談窓口(担当者・連絡先・受付時間)の設置と全従業員への周知
  • 担当者への対応訓練(外部専門家の活用も有効)
  • 相談内容のプライバシー保護の徹底
  • カスハラ該当性が微妙なケースも含めて相談を受け付ける

措置3: 事後対応の実施

カスハラ事案が発生したら、迅速な事実確認と被害者保護が必要です。

  • 事実関係の正確な確認(記録保全を含む)
  • 被害者への配慮措置(担当交代・休暇・メンタルヘルスケア等)
  • 再発防止策の策定・実施
  • 定期的な集計・分析による組織的対応改善

措置4: 抑止措置の整備

悪質な言動への対処方針を事前に定め、従業員に周知しておくことが重要です。

  • 警察通報・弁護士への相談・警告書発出の判断基準を事前に設定
  • 出入禁止・取引停止・通話終了の判断権限を担当者・管理者に付与
  • 深刻ケース対応フロー(誰が・いつ・どう動くか)の明文化

措置5: プライバシー保護と不利益取扱禁止

  • 相談者・協力者のプライバシー(性的指向・ジェンダーアイデンティティを含む)の保護
  • 相談・証言を理由とした解雇・降格・不利益取扱いの禁止
  • 上記の禁止事項を全従業員に周知

業種別の対策ポイント

カスハラの発生状況・形態は業種によって異なります。自社の業種に合わせた上乗せ対策が必要です。

小売・流通業

  • レジ・接客時の暴言: 一人対応の長時間化を禁止し、複数スタッフでのバックアップ体制を整える
  • 返品・交換の過度な要求: 返品ポリシーを店頭・サイトに明示し、ポリシー外の要求は毅然と断る
  • 防犯カメラの周知: 「録画中」の掲示はカスハラ抑止に効果的
  • SNS誹謗中傷への対応: 虚偽投稿の場合は証拠保全のうえ削除申請・弁護士相談を検討する

飲食業

  • 厨房・ホール従業員への暴言: 店長・責任者が迅速に介入できる体制を事前に整える
  • 「口コミに書く」の脅迫: 脅迫的言動は証拠保全のうえ法的対応を検討。事実でない投稿には削除申請が可能
  • 無理な注文変更・過大要求: 断り方のスクリプトを研修で徹底し、現場が一人で抱え込まない体制を作る

医療・介護・福祉

  • 患者・利用者・家族からの暴言・暴力: 職種を問わず対象。管理者が必ず被害者のバックアップに入る
  • 身体的負担を伴うケア中の暴力: 複数名対応・業務調整・警察通報までのフローを事前に整備する
  • 診療・サービス継続の判断権限: 暴力・脅迫には診療・サービス継続を断う権限を管理者に付与する

コールセンター・通信販売

  • 長時間・繰り返し電話: 「〇分以上の暴言が続いた場合は通話終了可」の判断基準をルール化する
  • 通話録音の活用: 録音は証拠保全・研修素材として有効。「録音します」の事前告知を習慣化する
  • オペレーターへのアフターケア: カスハラ対応後は必ず声がけ・休憩・面談を実施する。放置は離職・メンタルヘルス悪化の原因になる

建設・不動産・専門サービス

  • 取引先担当者からの恫喝: 取引先・委託先からの暴言・脅迫もカスハラに該当する。担当者交代・取引条件見直しを選択肢に含める
  • 居座り・業務妨害: 不退去罪・業務妨害罪に該当する可能性があり、警察通報は正当な対応手段である
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違反・放置のリスク

カスハラ対策義務化に違反、または対策を放置した場合のリスクは複数あります。

行政上のリスク

  • 報告徴求命令: 労働局が事業主に対し対応状況の報告を求める
  • 助言・指導・勧告: 是正を求める行政指導が段階的に強化される
  • 企業名の公表: 勧告を無視し続けた場合、厚生労働省が企業名を公表する(ブランドへの重大な打撃)

民事上のリスク

  • 安全配慮義務違反(労契法5条): 会社が義務を怠ってカスハラ被害が発生した場合、被害従業員から損害賠償請求を受ける可能性がある
  • 使用者責任(民法715条): 従業員の離職・精神的損害に対する賠償責任を問われる場合がある

事業上のリスク

  • 優秀な人材の離職: カスハラへの無対応は従業員のモチベーション低下・離職の主因になる
  • 採用難の悪化: SNS・口コミでのネガティブ評判が求職者へのマイナスシグナルになる
  • 生産性の低下: カスハラに怯えながら働く従業員のパフォーマンスは著しく低下する

2026年10月までの準備スケジュール

施行まで残り約4か月(2026年5月時点)です。以下のスケジュールを参考に対策を進めてください。

時期 やること ツール
今すぐ
〜2026年6月
カスハラの定義・具体例の把握
対応マニュアル・社内規定の草案作成
相談窓口担当者の指定
無料テンプレート活用
2026年7月 就業規則別規定の制定・労基署届出(10人以上)
相談窓口の正式設置・全従業員への周知
対応記録シートの運用開始
社労士・弁護士への相談推奨
2026年8〜9月 全従業員向けカスハラ防止研修の実施
管理職向け対応手順研修の実施
深刻ケース対応フロー(警察・弁護士連絡先)の確認
研修スライドテンプレート活用
2026年10月1日 義務化施行
対策の継続運用・記録保管
年1回以上の研修サイクル確立
定期的な見直し・改訂
就業規則を改定して労働基準監督署へ届け出る場合(常時10人以上の労働者を使用する事業場・労基法89条)、過半数労働者代表の意見聴取・周知も必要です。詳細は社会保険労務士または弁護士にご相談ください。

チェックリスト:施行前に完了すべき事項

  • カスハラ対応マニュアルの整備(本テンプレートを活用)
  • 社内規定(就業規則別規定)の制定・届出
  • 相談窓口の設置・担当者の指定・全従業員への周知
  • 全従業員向け研修の実施・理解確認
  • 対応記録シートの導入・保管体制整備
  • 深刻ケース対応(警察通報・弁護士連絡先)の事前確認
  • 定期的な見直し・改訂サイクルの確立
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よくある質問(FAQ)

カスハラ対策の義務化はいつから始まりますか?
2026年10月1日(令和8年10月1日)から施行されます。令和7年6月11日に改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)が公布されました。施行規則・指針は厚生労働省公式サイトで随時公表されていますので、定期的に確認してください(厚生労働省公式ページ)。
カスハラ義務化の対象となる企業・事業主は誰ですか?
従業員を1人でも雇用しているすべての事業主が対象です。中小企業・小規模事業者・個人事業主を問わず、業種・規模による適用猶予措置は設けられていません。パートタイム・アルバイト・派遣社員を雇用している場合も対象です。
事業主が講じなければならない措置は何ですか?
厚生労働省指針に基づく主な措置は以下の5項目です。
  1. 方針の明確化と周知:カスハラに毅然と対応し従業員を守る旨の方針を定め、社内で周知する
  2. 相談体制の整備:相談窓口を設置し、担当者が適切に対応できる体制を構築する
  3. 事後対応の実施:事実確認・被害者への配慮措置・再発防止策を迅速に行う
  4. 抑止措置の整備:警察通報・警告書発出・出入禁止等の対処方針を事前に定め周知する
  5. プライバシー保護と不利益取扱禁止:相談者のプライバシー保護・相談を理由とした不利益取扱禁止を周知する
カスハラ義務化に違反した場合、どのようなペナルティがありますか?
違反した事業主は、労働局による①報告徴求命令・②助言・③指導・④勧告・⑤企業名の公表の対象となります。直接的な罰則金は設けられていませんが、勧告を無視し続けた場合の企業名公表はブランドへの深刻なダメージにつながります。また、義務不履行状態でカスハラ被害が発生した場合、従業員から使用者責任(民法715条)を問われる可能性もあります。
カスハラとはどのような行為を指しますか?正当なクレームとの違いは?
カスハラとは、顧客・取引先・利用者等の言動であって、手段・態様が社会通念上相当な範囲を超え、従業員の就業環境が害されるものです(厚生労働省指針)。判断は「①要求内容の妥当性」と「②手段・態様の相当性」の2軸で行います。商品の不備を指摘する正当なクレームはカスハラではなく、引き続き誠実な対応が必要です。一方、暴言・脅迫・長時間拘束・不当な金銭要求・SNS誹謗中傷などを伴う場合はカスハラとして対応します。
取引先企業の担当者からの暴言・恫喝もカスハラに該当しますか?
はい、取引先・委託先・下請企業の担当者からの言動もカスハラの対象となります。「顧客等」には取引先担当者・業務委託先・施主等が含まれます。特にBtoB取引の多い建設業・専門サービス業では、取引先からのハラスメントが深刻なケースもあります。担当者の交代要請・契約条件の見直し・取引中止も選択肢として検討してください。
マニュアルを整備したが研修を実施していない場合、義務を果たしていると言えますか?
マニュアル整備だけでは不十分です。厚生労働省指針では、方針の「周知」が義務要件となっています。マニュアルの作成にとどまらず、全従業員への研修実施・理解確認・署名収集まで行うことが求められます。年1回以上の全社研修実施を推奨します。
カスハラ被害を受けた従業員が退職を申し出た場合、会社にはどのような責任がありますか?
会社が適切な措置を講じていなかった場合、安全配慮義務違反(労契法5条)を問われる可能性があります。被害従業員から損害賠償請求(慰謝料・逸失利益・治療費等)がなされるリスクがあります。義務化前から対策を講じることが、従業員を守るだけでなく企業リスク管理の観点でも重要です。早期に弁護士・社会保険労務士に相談することをお勧めします。
どこから対策を始めればよいですか?中小企業向けの優先事項は?
優先順位は以下の通りです。
  1. 方針の明確化・文書化(最優先):経営者が「従業員を守る」方針を明言し、マニュアルを整備する
  2. 相談窓口の指定:担当者を1名以上指定し、従業員全員に周知する
  3. 全従業員への研修:30分程度の研修でも有効。外部研修・動画研修の活用も可能
  4. 対応記録シートの導入:万一の法的対応に備えて記録を残す習慣をつける
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本記事は一般的な法律情報の提供を目的としています。個別の事案への対応・規程整備・法的判断は、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。
主な参照先: 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」厚生労働省「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」 (2026-05-28確認)